文明が発達した現代に於いても、科学では説明の出来ない出来事は存在する。そう、21世紀になった今でも...。
2001年1月の某日、その日は天気も良く風もさわやかだったのだが、その一見穏やかな表情の陰には予想も出来ない出来事が隠されていたのだ。
知欠ジョー氏は VATトレーラーの製作を行っていた。すでに氏は牽引トラックの組み立てを終了し、台車の作成中であった。
40個ものタイヤとの格闘を終え、疲れ気味の彼はある種のトランス状態にあったのかも知れない。あるいは揮発した接着剤の成分が何らかの作用を及ぼしたのかも知れない(のちに氏は「天気が良かったので窓を開けおり、換気は十分だった」と証言している)。
しかし、氏に起こった出来事は紛れもない真実なのだ。
インタビューに赴いた我々をコーヒーとクッキーで温かく迎えてくれた氏は、初めのうちはごく普通に雑談に興じていた。だがひとたびその時のことに話が及ぶと、氏は急に黙り込んでしまった。そして数秒間の沈黙のあと、淡々と以下のように述べ始めた。
ジョ「それは台車の上に付く支持フレーム基部のパーツを組んでいるときに起こりました。kibriプラモのパーツは驚異的に合いが良く、時には合いがタイトすぎてなかなか組み込みが難しい場合もあります。支持フレーム基部のベージュ色のパーツ同士の組み込みに思ったよりも力が要りググッと力を入れていた私は、パーツの隅に何やら赤い物を見つけたのです。『 ベージュ色のパーツだけだから当然赤い部分はないはずだが?』と不思議に思った私はパーツをひっくり返しました。そして見たんです...。」
氏は大きなため息をつくと、目を伏せながら続けた。
ジョ「パーツの裏にはべっとりと血が付いていたのです。慌てて手を見ると左手の2本の指にも血が付いていました。私はしばらく目の前の光景を信じられずにいました。」
我々「なるほど、いくら力を入れていたとはいえ、プラスチックのパーツを握っていただけですよね?それで血が流れるほどの怪我をするとは思えないですよね?」
ジョ「ええ、血は流れていても全く痛みはなく、それどころか必ずあるはずの傷口がどこにも見あたらなかったのです。」
我々「赤いインクか何かが付いたと言うことは考えられませんか?」
ジョ「いえ、私の部屋には赤い液体が付くような物は何もありません。試しに少しなめてみたのですが、いわゆる『鉄の味』がする本物の血でした。私はいぶかしがりながらも洗面台に行き、パーツと左手の血を洗い流して、もう一度左手を見てみました。それでもやはり傷口は見つかりませんでした。」
我々「そのあとはどうされたのですか?」
ジョ「15分ほどの休憩のあと、気を取り直して再び同じパーツの組み込みを始めました。そして作業を再開してまもなく、ふと気づくと...。」
我々「ま...、まさか?」
ジョ「そう、パーツの裏と左手にまた血が付いていたのです。しかも同じ場所に。」
我々「そんな...。」
ジョ「私は慌てて血を拭き取り、今度はルーペまで持ち出して左手を確認しました。でも結果は同じでした。痛みも、傷口もそこには存在しなかったのです。」
我々「...ちょっと待ってください。傷口もないのに15分もしてから同じ場所に血が?」
ジョ「信じられませんか?」
我々「すいませんが、正直に言ってそうです。」
ジョ「無理もありません。私も他の人から聞かされた話ならば同じように信じないでしょう。でも、これを見てもまだそう考えますか?」
氏が差し出した物を見て我々は言葉を失った。それは2回目の流血の際に氏が使った1枚のティッシュだった。そしてそこには、まぎれもなく拭き取られた血が残っていたのである。
それ以後、氏に不思議な現象は起きていない。だがその日に起こった出来事の真相は、今もなお不明のままである。
文明が発達した現代に於いても、科学では説明の出来ない出来事は存在する。そう、21世紀になった今でも...。