ここは捜査班の取調室。二人の捜査員によるTJ氏に対する取り調べが行われている。
捜査員の一人(A)はこの道20年のベテラン捜査員。ノンキャリア組ながら妻と3人の子供のため、ここまでたたき上げてきた。
もう一人(B)は中央省庁から派遣されてきた今年2年目の駆け出し捜査員。鼻息は荒いが、腕の方はまだまだこれから。ありがちな設定である。
B「さて、まずお名前からお聞きしましょうか。」
TJ「知欠ジョーです。」
B「ご職業は?」
TJことジョー「しがないクレーンフェチです。」
B「クレーンフェチ?それはどんな職業ですか?」
ジョー「クレーンを組み立てたり、眺めたり、写真撮ったり、あんなことやこんなこともするんです。」
B「それは『趣味』と言うのでは?職業を聞いてるんですよ!!」
声を荒げた捜査員Bを捜査員Aがすかさず止める。
A「B、まあいいだろう。今回はクレーンじゃなくトレーラーに関する事件だしな。さてジョーさん、トレーラーに関して、何があったんですか?」
ジョー「な、何もありませんよ。」
A「本当ですか?」
B「こちらでは色々な証拠も押さえてあるんですよ。」
ジョー「証拠?それはどこから入ってきたんですか?」
B「『そろそろ2時の奥様』の放送からです。」
ジョー「そ、そんなところから??」
唖然とするジョー。
B「一見ワイドショーですが、あの番組はいい情報源なんです。毎回録画してますよ。」
A「さあジョーさん、何があったんですか?」
ジョー「な、何もないって言ってるでしょう。」
A「今頃は母さんが夜なべをして手袋を編んでるでしょうなぁ。」
ジョー「何のことですか?関係ありませんね。」
この道20年の必殺泣き落とし作戦も、『夜なべ』=『夜に鍋を食べる事』と思いこんでいるジョーには通用しない。
A「ねえジョーさん、話してもらえませんか?」
ジョー「....。」
A「...そうですか。」
チラッと時計を見る捜査員A。
A「おっと、もう昼飯の時間か。ジョーさん、飯にしましょう。カツ丼でいいですか?」
ジョー「カ、カツ丼??」
カツ丼と言う言葉にピクッと反応するジョー。
ジョー「2つ頼んでいいですか?カツ丼。」
A「ええ、どうぞお好きなだけ。おいB、カツ丼2つだそうだ。頼んでくれ。」
ジョー「じ、じゃトレーラーの事を話します。あれは20軸80輪のトレーラーCを作っているときでした。」
トレーラーC
カツ丼を2つ食べられると分かった瞬間、ジョーは堰を切ったように話し始めた。
ジョー「トレーラーCは前から4軸、6軸、6軸、4軸と4つの台車に分かれているんです。」
トレーラーCの概略図。くの字に曲がった車軸の向きに注目。
「前半の4軸+6軸は何事もなく組み立てられました。ところが後半の6軸+4軸を組んでみたら、最後の4軸の車輪を前後逆に接着してしまったんです。」
このように4の車軸が逆になってしまった。
A「なるほど、それが今回の事件の真相ですね。それでどうされました?」
ジョー「私は4軸の車輪をひっぺがして前後を付け替えました。」
B「なんだ、それで事件解決じゃないですか。そんなことならもっと早く言ってくれればいいのに。」
ジョー「いや、それが...。」
A「まだ何かあるんですか?」
ジョー「全体を組んでみたら、実は間違えていたのは最後の4軸ではなくて6軸の方だったんです。」
A「ええっ?」
B「元々正解だった4軸をわざわざ逆向きにしちゃったってことですか。」
と思ったら実は3が逆で、わざわざ4まで逆にしてしまった。
ジョー「そうです。慌てて後半の6軸+4軸の両方をひっぺがして正しい向きに付け替え、素知らぬ顔でHPを更新してしまいました。『そろそろ2時の奥様』のインタビューさえなければ隠し通すつもりだったのにぃ...。」
ジョーは机に突っ伏してワッと泣き出した。顔を見合わす二人の捜査員。
その顔にはヤレヤレ『ヽ( ´ー`)丿』と言う表情が浮かんでいた。
A「ジョーさん、まあ落ち着いて。さあ、カツ丼が来ましたよ。」
ジョー「ありがとうございます。ハグハグ。」
半ベソをかきながらジョーはカツ丼に食らいついた。
A「食べながらでいいですから聞いてください。本来なら違法接着罪が適用されるところですが、今回はご自分でミスを発見して修正されてますので問題ありません。」
B「つまり無罪ですよ。」
ジョー「良かったです。ハグハグ(カツ丼2つ目)。」
A「それを食べ終わったら帰っていいですよ。」
2つのカツ丼をたいらげたジョーは無罪の安堵感と満腹感に浸りながら帰ろうとした。
A「ああ、ところでカツ丼代は自費ですから、払ってくださいね。」
ジョー「えっ????」